溶接機のデジタル化

溶接機のデジタル化が普及してきている(えっ、今頃?という声がなくもないが・・・)。電流、電圧などの溶接条件が可変ボリュームではなく数値とし て制御できる上、アークの集中性も良い、というのが利点だ。現場経験の浅い初心者にとって扱いやすいし、またデータが採れることによって経験者が次世代の 者に技術、技能を伝える為の手助けになる。これは後継者不足に悩む溶接業界にとって、かゆい所に手が届いた画期的な道具であると思う。

内部の電気回路も現時点で最小化された半導体部品を基板に組み入れることによって溶接機全体の小型、軽量化が可能となり、外観のデザインも悪くなく従来の溶接機のイメージとは一線を画している。これから先の主流となっていくのはまず、間違いないであろう。

わたしもデジタルのTIG溶接機が欲しいが、今の段階では、機能にまだ少し不満がある。デジタル機の最小電流が4A前後であるというのだが、アナログ機では 1Aでアークスタート可能というのがある。これは是非とも両機能を合体させてもらいたい。技術的に不可能ではないはずに思えるのだが・・・。

さて、これはわたしのTIG溶接における師匠から聞いた話だが、昔の溶接機は今の溶接機にはない良さがあったという。

例えばアルミの溶接。機械加工上のミスで削り過ぎてしまい、その部分を溶棒で盛ってくれという依頼がよくある。たいていの場合、その後、平らに仕上げるので その時、凹みがないようにやや盛り上がるように溶棒で肉を盛る。母材をアーク熱で溶かすとその組織は一度、破壊される。イナ−トガスでシールドされている としても完全な真空状態ではない為、大気を巻き込む可能性はゼロではない。僅かな湿気でも水素などを巻き込んでしまう。特にアルミの場合、溶けている状態 が鋳物に近く、微細な泡がたちやすい。凝固する前に泡を表面から抜け出させないと、母材のなかに残留したままとなり、それがブローホールとなってしまう。

その後、溶接ビードをフライス等で削って仕上げた場合、「巣」と呼ばれる微細な粒で半球状のブローホールの凹みが顕われてしまうことになる。わたしの経験上 から言わせてもらうと、これは時の「運」による。たまたま、ブローホールがなかったとしても、それはただ単に「ラッキー」だったと思ってしまう。もちろ ん、その対策方法は試してきたし、これからも模索し続けていくが(アルゴンではなくヘリウムを使う、予熱を十分にする、湿度管理をする、ボンベからのガス ホースを短くする等)、現在のわたしの工房では限り無くゼロに近づけたとしても100%の確証は持てない。

だから、アルミ製の高真空チャンバーなどで溶接部分を切削してしまう設計の構造物の仕事は断るようにしている。保証ができないからだ。

話は戻るが、昔の溶接機は今の溶接機に比べて「巣」が出にくかったと師匠はいった(それもアルゴンで)。それがなぜかはわからない。推測するに、ごついトラ ンスを使っていたこと、ICチップをふんだんに使った回路ではなくインバータが登場する前の電気の流れの太さ、速度(?)のようなものが程良かった等が考 えられれが、いぜん謎のままだ。

師匠はこうも言った。「なんつうかアークがもっと柔らかかったんだよな、アルミがさ、こう柔らかく溶けてくれたような気がするんだよな」

その話を聞いて、わたしはレコードとCDのことを思った。CDは取り扱いも楽だし、文字通りコンパクトだ。しかし、アナログレコードをプレーヤーにセットして音楽を聞くとCDにはない音の柔らかさみたいなものを確かに感じる。

デジタル機器はこれからも進化し続けるだろうが、総デジタル化ではなくアナログ機器も生産を止めずに残して欲しい、と切に願う。