カーネルパニック

早、二月も半ばを過ぎてしまった。このページも三か月ぶりの更新ということになる。ネタが尽きた、仕事がめちゃくちゃ忙しかった、パソコンの調子が著しく悪かった、忘新年会と呑み歩いていた・・・まあ、どれも本当のことだが言い訳にはなるまい。ただ、このページにかける情熱を欠いていたという他ない。

我が工房のパソコンには参った。わたしは愛用のiMac DVにOS X(10.1.5)を入れて使っていたのだが、どうもこのところ動作が不安定で起動時にフリーズしてしまったり、突然、暗い画面に 訳の分からないアルファベットや数字などのコマンドが顕われ、にっちもさっちもブルドック状態になってしまうのであった。

アップルコンピュータのサイトにアクセスして調べてみると、これは「カーネルパニック」という現象だということが分かった。もちろん素人のわたしにはコマンドが読めないので原因は全く分からない。

カーネルパニック・・・なんと人を不安にさせる響きを持った言葉だろう。あの幸せの白いスーツに恰幅の良い身体を包み、穏やかな笑顔でお客様を迎えるケンタッ キーフライドチキンのカーネルサンダースおじさん。阪神優勝の時も皆が喜ぶのならと自らの身を犠牲に道頓堀川に飛び込む(?)勇気。いわば幸福の象徴でも ある、あのカーネルおじさんでさえパニックに陥ってしまう状況。わたしにはそういう意味にしかとれなかった。

年々ファイルは増えるばかり。 これは治療しなければならない。OSのインストールCDで起動し、必要なファイルをMOにバックアップしてから、リストア(製品出荷時の状態に戻す)する ことにした。使いはじめた数年前、OS 9の頃にも「爆弾マーク」が出てきたこともあってリストアは今までに何度か試みている。インストールした他のアプリケーションソフトや自分で作ったデータ は全て消えてしまうが、ハードディスクのなかが掃除されるので、再び、まっさらな状態で使いはじめることができる。

今まではそうやって危機を乗り越え、再生してきた。しかし、今回は訳が違った。我がi Macの場合、リストアするとOS 9.0.4になる。これを9.1〜9.2.2〜10.1.3〜10.1.5まで順を追ってバージョンアップしていく(物凄く時間がかかる)のだが、 10.1.3から10.1.5にした段階でまたもやカーネルパニックが起こってしまった。

コマンドに少し見慣れてくると、簡単な文字だけ拾うことができる。そこには、[bad access][panic][crash]などどれも不吉な表示があり、挙げ句の果てに[we are hanging here]と・・・カーネルおじさんは木の枝に吊るされて瀕死の重体だった。

大変なことになった。インストールCD付属の ディスクユーティリティでHDを検証し、問題が見つかれば修復して、再度試みる。「HDは問題ありません」と表示されても全く回復しない。PRAMのリセット、ゼロの上書きも試みる。市販のディスクユーティリティも購入し、検証、修復しても結果は同じだった。10.1.3〜10.1.5にアップデートする時がいけないのか?

わたしは大胆な行動に出た(もはやわたしがパニックだった)。最新のMac OSであるpanther(10.3)を購入し、HDを初期化してインストールしてみた。その結果、なんとか使えるようになったみたいだった。

これが最新のOS、パンサーか。フォントやウィンドウの美しさにしばし見とれた。アップル純正のブラウザ「サファリ」で見た我が工房ホームページも問題なく対応できていることに安堵した。しかし、素晴らしいOSに感動していたのもつかの間、再起動時にまたもやあのカーネルパニックがディスプレイを覆った。

インストールCDから起動し直す。このOS 10.3からはカーネルパニックのログがファイルとして保存されるようになっていて(それまでのOSではその機能がなく、ログを手書きで写し取らなければならなかった)、それをアップルのサポートに送るとケアが可能になるとのことだった。わたしはそのファイルをMOに写し、アップルに送るつもりでいた。

何気なくログを見ているうちにある日付けに目がとまった。may/30/2002とある。わたしがこの工房を立ち上げる準備に追われていた頃だ。家で使って いたi Macを工房に運び入れ、初めてOS 10をインストールし、メモリーも自分で増設した。そこでやっと思い付いた。ハードウェアをテストするCDが付属していたことに・・・。

トライした結果、メモリでエラーが出た。わたしはその時、瀕死のカーネルおじさんがピクッと、わずかに反応したように思えた。捨てずに取ってあった元のメモリに入れ替え、テストを繰り返し、どのメモリでエラーが出るのかを突き止めた。

カーネルおじさんが息を吹き返したのを感じた。確実に動作するメモリをセットし、もう一度、リストアからやり直す。わたしは自信を持って冷静にメスを振るう外科医のように順序を追っていった。そこで一つの決断をした。OS 10.3はまだ入れられない。なぜなら、他の手持ちの会計ソフトやグラフィックソフト、バーチャルPCなどが対応できないからだ。なんともお粗末が、それまでのわたしはパニックだったのだからしょうがない。

メモリが最初から不良であったにもかかわらず(それとも使っているうちに不良になった のか?)この一年半、一応正常に動き続けていた事に合点がいかないが、まあ、今回は良しとしよう。短納期の仕事に追われながら、とてつもない時間をこの復旧に費やしてしまったが、その過程においての全てが勉強になった。

今、panther(OS 10.3)は書庫に鎮座している。この先、時がきたら活躍してもらおうと思っている。

次の日曜日、休みが取れたらカーネルおじさんの回復祝いにケンタッキーフライドチキンに10ピースのファミリーパックを買いに、そしてあの幸福の笑顔に会いに行こうとわたしは思っている。